本のデータ
著者:−
発行年:2011年
書名:『季刊 真夜中 No.12 2011 Early Spring 特集 冬空の科学』
発行元:リトルモア
本の思い出
『真夜中』という雑誌
わたしがこの本を手に取ったのは、敬愛するやくしまるえつこさんのページを読むためだった。
『真夜中』という雑誌名、
「冬空の科学」という、ぴりりと冷たい特集名。
素敵。
そして、やくしまるえつこさんとの親和性がばっちりである。
彼女は真夜中に生活し、冬だけが好きな人だから。
わたしも真夜中という時間帯が好きだし、寒い季節が好きだから、
読む前から、早くもこの雑誌に親近感を抱いている。
表紙は、冷たいグレイの地に黒くぽっかりと窓が空いていて、
雪が降り落ちている。
これは真夜中の冬空だろうか。
まるが重なったところは、雪だるまみたいに見えてかわいい。
真夜中という雑誌名の上には柄杓の形をした星座がかかり、
冬の冴え冴えとした空を感じさせる。
表紙だけでこれだけ満足させてくれるこの雑誌だが、
もちろん中身も最高であった。
小説、エッセイ、コラム、漫画…
良質なこれらのコンテンツが、それぞれ異なるページデザインで並んでいる。
ページデザインは、個性的なのに、シンプルで、表紙との統一感があって、惚れ惚れしてしまう。
わたしの“文化欲”たるものを満たしてくれる。
ひやりと冷たさを感じさせる紙面のデザインに対して、紙質はざらりと柔らかく、温かみがあるから、
なんだかとても心地よい。
紙の色も、少し古い雑誌だからという可能性もあるが、上質なクリーム色をしている。
ページを捲るたびに、好奇心が湧き出し、同時に満足感が得られる素晴らしい雑誌だ。
やくしまるえつこ「科学百科 入門編」
肝心のやくしまるえつこさんのページ「科学百科 入門編」を真っ先に読み込む。
ああ、好きな人が特集されたページが眼前に広がる幸せといったら!
「科学少女たるもの」と題されたコーナーでは、やくしまるさんの秘密が垣間見えて興奮する。
メインコーナー「科学少女のたしなみ」では、やくしまるさんが愛好するものが辞書風味に列挙されていて、それに対してやくしまるさんが一言二言コメントを寄せている。
それぞれのものは辞書風に、無味乾燥といった感じで説明されているのに対して、
やくしまるさんのコメントはゆるくて、それでいて鋭く的確だから、いい意味で中和されて、
ウィットに富んだ紙面になっている。
時折挟まれるやくしまるさんのイラストが、かわいいやら意味深やらで、いいアクセントになっている。
一字一句大切に、取りこぼさないように読み込むこの時間が愛しい。
ずっと読んでいたいと、そう思う。
板尾創路、蜂飼耳、池内了「三つの世界」
読み終わるのがもったいなくて、『真夜中』は本の一部のページしか読んでいないのだけれど、
まずさっと読んでみて大好きになった特集がある。
それは、「三つの世界」という特集。
何が「三つの世界」なのかというと、この特集、同じ問いに対し、
芸人、詩人、科学者の三者に回答させ、その回答の趣の違いを楽しむという特集なのである。
つまり、一つの問いに対して、三者三様、「三つの世界」が現れるわけだ。
回答者は、
芸人 板尾創路
詩人 蜂飼耳
科学者 池内了
の三人。
これが面白いのだ。
実際に読んでいただくのが一番早いし、著作権上ここに全文を載せるわけにもいかないのだが、
とにかく面白い。
よく文系脳、理系脳とかいうが、そんな感じ。
それに“芸人脳”を付け加えた感じ?
芸人である板尾さんの回答は、基本的に一言に収まってしまう。
何かを説明するというよりは、大喜利で回答するのに近い。
回答は短いけれど、その少ない言葉の中に、無限の可能性と想像力が詰まっている。
くすっと笑えて、洒落が効いていて、そしてくだらない。
でも、なんだか肩の力が抜けて、ほっとする。
何かを問われた時、わたしたちは真面目に考えすぎなのではないか、
真面目に答えようとしすぎているのではないかなどと感じる自分がいて、それにまた笑う。
詩人の蜂飼さんの回答は、美しいリズムがある。
言葉が丁寧で、物語の語り手のような品がある。
読むと引き込まれて、想像の世界は豊かになり、美しい世界が脳内に広がる。
また、わたしは恐らく蜂飼さんの考え方に最も近いと思われ、すごく親近感や
納得といった感覚を得ることができる。
一つの問いに対し、ここまで世界を増幅させられる蜂飼さんの力に、うっとりとする。
科学者の池内さんの回答は、まるで学術書や教科書を読んでいるようである。
すごく理路整然としていてわかりやすく、正しいことを記述している。
そこには現在正しいとされていること、まさしく問いに対する回答が書かれており、
それ以上でも以下でもない。
過不足なく問いに対して答え、無駄がない。
ただ、同じ問いに対して、
捻った回答をする芸人の板尾さん、詩的で理屈ではない回答をする蜂飼さんの回答と、
ただひたすら説明をする科学者の池内さんの回答が並ぶことで、
池内さんの回答がなんだか個性的で面白いものに感じられてくる。
それが非常に興味深いことだし、この特集の意図するところだとも思う。
それぞれが面白いし、並んだ時に互いを際立たせる。
世界はこんなふうに、いろんな見方をしたっていいのだと教えてくれる気がする。
何か大きな問いに面した時、大喜利したっていいし、想像の世界を膨らませてもいいし、
理路整然と説明しようとしたっていいのだ。
どれも大事だし、何より面白い。
何かを思い詰めた時、この特集を思い出せたらなと思う。
きっと、三者三様、ばらばらの回答に、肩の力が抜けるはずだから。
むじゅん
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