この空を見て、高校生の頃、ドビュッシーの「夢」を好きで弾いていたことを思い出した。
ピアノで弾いたり、フルートで旋律を奏でたり。
それは、吹奏楽部の休日練習が終わった後、居残って練習していたわたしだけの時間で、誰も知らない秘密の時間だった。
こっそり、音楽室のグランドピアノを爪弾いた。
古い木の校舎に、独学ゆえの歪でたどたどしい「夢」がまるく響いた。
高校1年生の時、生まれて初めて自らの意思で弾きたいと思って猛練習の末に弾ききった、ラヴェルの「水の戯れ」をそのグランドピアノで弾く時間も大好きだったけれど、「夢」を弾く時間は、もっと密やかで、甘く、優しい時間だった。
その時間だけは、誰も、わたしのことをジャッジすることはなかった。
わたしだけの「夢」。
「夢」の音楽は不思議で、ロマンティックなのに甘すぎることなく、意外とさらりとした肌触りを感じる。
まるですべすべのシーツみたいに。
気持ちが良くて、浸っていたくなる。
美しい調べ。
午後の光が差し込んで時間が止まったような音楽室の震える空気と、今日の夕暮れの空が、少しだけ、端だけ溶け合う。
極めて短い時間だけ。
むじゅん
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